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命のライセンス

 冷戦の間、敵に利することをおそれた西側諸国は、共産主義地域を対象とした輸出管理(ココム)を行っていた。管理統制の対象は武器に留まらずあらゆる技術やハイテク製品も含んでいた。冷戦終結後は対象地域の限定は解除され、あらためて先進国がテロ・紛争国家と規定する地域の「安定を損なう通常兵器の過剰な蓄積の防止」を目標とした貿易管理体制が成立した。1996年の、世に言うワッセナー・アレンジメントである。

 この規制によれば、たとえばPS2を一部の不適切な地域に持ち込むことはできない。ただのおもちゃとはいえ、PS2のCPUが軍事目的に流用できるだけの能力を備えているからだ。しかしながら、実際の紛争国家にはPS2はないかも知れないが銃火器はあふれるほどに流通している。それも先進国ドイツの、イギリスの、ベルギーのあるいはフランスのブランドが刻印された火器である。

 もちろん欧州連合は、紛争地域への武器の輸出は禁じている。しかしグローバリゼーションは、欧州の兵器業者に様々な抜け道をもたらした。その一つが、武器のライセンス生産である。

 ワッセナー・アレンジメントに合意しない第三国からは、世界のどの地域にでも銃を輸出することもできる。つまりアフリカをはじめとした各国の民族紛争で華々しく銃声を上げるブランドものの重火器は、欧州メーカーのライセンスを受けてトルコやパキスタンをはじめとした第三国で生産されたものなのだ。老舗の技術力と第三国の生産力、そして紛争地域の武器需要。市場経済の見事な調和形態である。形だけなら。


 ところで紛争と同じかそれ以上にアフリカ諸国の将来を脅かしているのが、後天性免疫不全症候群(AIDS)である。国連エイズ対策機関は昨年、アフリカでも感染率の高い国では若者の二人に一人がエイズ関連症で死ぬ可能性があるという悲観的な観測を報告した。既に大陸全体で感染者数は2500万人に達し、アフリカ南部においては感染者が人口の2割を越えている。

 衛生状態の悪さと女性の地位の低さのおかげで、予防キャンペーンは満足に機能しているとは言えない。そして高額な治療費が感染者から治療の機会を奪っている。トライセラピー(抗生物質の三種混合投与)の登場により、北米や欧州ではエイズはいまだ不治とは言えもはや致死の病ではなくなった。しかしこれらの薬品は大手製薬企業によって特許登録がされている。企業の言い値でしか薬を買えない状態で、貧困にあえぐ国々では治療法の存在になんの意味があるだろう。

 実はこの問題には一つの解決手段がのこされている。特許を無視して勝手に薬を生産してしまうという、きわめてストレートな方法である。実際にブラジルでは1997年から国営企業が必要な薬品を生産し、社会保障システムが治療を必要とするすべてのエイズ患者に無料で配給している。ブラジルは第三世界で唯一エイズによる死亡率が先進国なみに低下した国だが、その背景には非常事態として特許を無視する決断を下した政府があった。インドもまた独自の対エイズ薬品の製造が行われているが、この国では特許権の概念の違いを元にした安価な薬品の生産システムが以前から存在している。

 62万人の感染者を抱える南アフリカは、自国での薬品生産が経済的に不可能と見て、タイで生産されている。「国際的に違法な薬品」の輸入を検討している。しかしもちろん製薬企業は黙ってはいない。彼らの利益が不当に犯されているとして、エイズ治療薬の特許を持つ各社はついに南アフリカ政府を訴えた。2001年3月5日以降、南アフリカ政府は国際法廷で被告として立っている。

 人の命を奪うライセンスは広く許可され、人の命を救うライセンスは厳しく保護される。新自由主義の、これが見るに耐えない現実である。

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